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体内時計

体内リズムは朝食や会話で調節される

このように体内リズムの調節に役立っている刺激は、「同調因子」と呼ばれています。人体にとって最大の同調因子は光の刺激なのですが、この他に、食事のタイミングや他人とのふれあいによる脳への刺激も同調因子として働いています。

朝、起床して食事をとれば、胃腸への刺激が脳に伝わり、休息モードから活動モードに切り換わります。また、会社や学校に出かけると、他人と会って話をします。このとき、脳は論理的思考力を扱う前頭連合野を中心に活性化するため、やはり活動モードに切り換 わるのです。こうして人の社会活動も同調因子として機能するわけです。

こうした同調因子によって、元々は一日25時間に設定されている体内時計は、毎日、24時間に修正されています。ただし、体内時計の周期は、平均すると25時間だという意味です。実際には個人差があり、全員がぴったりに25時間というわけではありません。一日の周期が24時間に近い人もいる一方で、なかには27時間に近い人もいます。また、同じ人でも、長い人生のなかで年齢や置かれている環境によって体内時計の周期は変動しているとも言われています。ただし、ごく一部の例外を除いて、ほとんどの人にとっては、体内時計の周期が24時間よりも長いのは確かです。

いずれにしても、サーカディアンリズムを味方につけることで仕事や勉強の能率を上げるためには、同調因子との付き合い方が大きな鍵を握っています。この章では、具体的に同調因子の攻略方法について、わかりやすく説明します。


外部刺激で体内時計を調節し、一日のリズムをつくる

ここで少し、体内時計の仕組みついて簡単に説明しておきましょう。人間の体内時計は、脳の視床下部の一部に当たる「視交叉上核」と呼ばれる部分で生み出されていると考えられています。視交叉上核というと、何だかわけがわからない名前だと感じられたかもしれません。しかし、なぜこの名がついたのかを知れば、どうということはありません。

両目の網膜に映った映像は、それぞれ左右の2本の視神経を通って脳に送られる仕組みになっています。この視神経は、脳に入る前に左の神経と右の神経がクロスします。視神経が交叉するということで、この部分は「視交叉」と呼ばれています。視交叉上核は、視交叉のほぽ真上にあるということで、この名前がつきました。ネーミングはまさに”そのまんま”ですので、理解しやすいですね。

外部から何の刺激も与えられなければ、この視交叉上核は、一日約25時間の周期を刻みます。もちろん、このままでは一日1時間ずつ遅れが生じますので、生活に支障をきたしてしまいます。そこで、私たちはこの25時間の体内時計を24時間に調節することによって、一日のリズムを生み出しているのです。

私か使っている腕時計は旧式のためか、一ヵ月に2秒ほど遅れてしまいます。この程度の遅れなら、日常生活には支障はありませんが、生放送の番組に出演している場合は、数秒の誤差が放送事故のような致命傷となりかねません。私は現在、文化放送で毎朝、『吉田たかよしプラスー・』という2時間の情報ワイド番組を担当しているので、仕方なく毎月、時計の時刻を修正しています。

時計を修正するには、NTTの時報など正確な時刻についての情報が必要です。正確な時刻がわかるからこそ、それに自分の時計を合わせられるのです。

体内時計の調節も、事情はまったく同じです。客観的な時刻の情報が得られるからこそ、1時間ほど遅れる体内時計を修正できるのです。といっても、原始時代にはNTTの時報サービスはありません。そこで、人体が時刻の調節に利用したのが太陽の光なのです。
 地平線から太陽が昇って明るくなれば朝、地平線に太陽が沈んで暗くなれば夜。実に単純明快ですね。光のオンとオフを利用すれば、体内時計を地球の自転に合わせることができます。

「日の出と日の入りの時刻は、季節によって変わるのではないか」。このような疑問を持たれたとしたら、実に鋭い洞察力だと言えます。実際、日の出の時刻が遅くなり日の入りの時刻が早くなることにより、冬場には「冬季不眠症」と呼ばれる症状が出ることがあり
ます。このあたりの具体的な自己チェックと克服の方法については、のちほどたっぷりと説明いたします。ここでは、人体は体内時計の修正に光の刺激を利用しているということを、頭に入れておいてください。 


体内時計と地球の自転周期のずれこそがポイント

ところが、2週間から3週間程度が経過すると、一定のリズムで眠ったり起きたりするようになったのです。その周期が24時間だったなら何の不思議もなかったのですが、実際には25時間のリズムを刻んだのです。つまり、眠りにつく時間も起きる時間も、毎日、1
時間ずつ、ずれてくるのです。これをそのまま解釈すれば、私たちの身体には25時間の体内時計が備わっているということになります。

地球の自転周期は24時間であるにもかかわらず、人体の体内時計は25時間周期だとすると、その1時間の差は、いったい何か原因なのかが、議論のまととなりました。まともな研究者からは相手にされませんでしたが、なかには「人間は実は自転周期が25時間の惑星からやってきた宇宙人の子孫だ」などという珍説まで提起されたくらいです。

いくら珍妙な説であっても、事実にもとづいて反証できなければイメージだけで排除するのは科学的な態度とは言えませんね。個人的にはこの説をちょっと応援したい気もしますが、人間エイリアン説は、あっという間に科学的にも否定されました。

同じような方法でマウスの体内時計の周期を調べると、23時間でした。他の動物についても体内時計の周期を調べると、やはり24時間からずれている種が続出したのです。まさか、人間は自転周期25時間の惑星から移住し、マウスは自転周期23時間の別の惑星から移住してきたなどとは考えられません。かくしてこの珍説は、あえなく陥落したわけです。

話が少し脇道にそれてしまいましたが、人間の体内時計は24時間に一致していないということだけは覚えておいてください。のちはど詳しく説明しますが、この体内時計と地球の自転周期の不一致こそが、程度の大小はあるものの、はとんどの現代人に何らかの睡眠障害をもたらしているのです。逆にいえば、この不一致を埋めることが、現代人にとって睡眠戦略の重要な柱となります。 


体内時計のリズムは、一日が25時間

言うまでもなく、地球は一日24時間の周期で自転しています。昔は、それに合わせて私たちの身体も24時間の周期でリズムを刻むように設計されているに違いないと、当然のように考えられていました。ところがある実験をきっかけに、私たちの身体は、実は24時間ではなく、それより1時間多い25時間の周期でリズムを刻むことがわかりました。

 外部からの情報が一切入ってこない部屋で生活すると、人間はどんな生活パターンになるのか。こんな一風変わった実験が、かつて行なわれたことがあります。

ドイツのユルゲンーアショフ教授は、1960年代に外部から隔絶された洞窟のなかに26人の被験者に入ってもらって、一ヵ月以上にわたり生活してもらいました。洞窟のなかには、もちろん時計はありません。また、太陽の光も入ってこないので、昼なのか夜なのかもわかりません。今何時なのかがまったくわからない条件下で、被験者に生活してもらったのです。食事の時間や眠る時間は、まったく本人の自由としました。このような環境の下で、人間はいったいどのようなリズムで生活をするのか、観察が行なわれました。

実験当初は、被験者の生活リズムはパラパラでした。長時間、眠り続けたかと思えば、逆に突然、睡眠時間が短くなることもありました。また、起きている時間も眠る時間もパラパラで、特定の傾向は認められませんでした。 


朝弱い人は睡眠次第で脳カアップ

質の高い睡眠をとるために最も大切なことは、一日24時間のリズムをしっかりと回復させることです。人間の長い歴史のなかで、一日のリズムが最も崩れているのは、間違いなく現代人だからです。

一日のリズムは、「サーカディアンリズム」と呼ばれています。このリズムが崩れてしまったために、質の高い睡眠がとれず、特に午前中の脳の機能が低下して、仕事や勉強に悪影響が出ている人が、少なくありません。

夜ふかしは得意なのに、朝起きるのが苦手な人。午前中、ボーつとしてしまって調子が出ない人。充分に睡眠をとった実感が湧かず、起床後に頭がすっきりしない人……。このどれかに当てはまる人は、サーカディアンリズムを崩してしまっている可能性があります。

逆にいえば、こうしたタイプの方は、一日のリズムさえ上手く調整できれば、質の高い睡眠をとれるようになるケースが多いのです。また、これに伴って、脳の働きを今以上に向上させる効果も期待できます。

一日のリズムは、水面の波とよく似ています。水面の波は、山の部分が高いはど谷の部分も深くなります。これと同じことが、睡眠についても成り立ちます。私たちの身体は、夜に深く眠るはど、日中には活動が活発になってくれます。逆に、日中に身体が活発に活
動するはど、夜には深く眠ることができるという性質もあるのです。

仕事や勉強で大きな結果をつかみ取るために、一日のリズムに着目して、質の高い睡眠をとる方法を考えていきます。