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寝だめを制する

寝だめテクニック「ウイークエンド・シエスタ」

そこでお勤めするのが、「ウイークェンド・シェスタ」です。スペインなどラテン系の人たちにはシエスタという習慣があります。日本人は時間に追われながらあわただしくラッチをとるのが一般的ですが、彼らは違います。ワインなどを飲みながらのんびり昼食をとり、たっぷりと昼寝をしています。おかげで、商店も官公庁も午後の数時間はしまっているのが一般的です。

ウイークエンドの寝だめには、このシエスタの習慣がもってこいです。朝寝坊するのではなく、いったん、いつもと同じ時刻に起床し、しっかりと光を浴びるのです。できれば15分以上、浴びるのが理想的です。こうしてメラトニンの分泌をいったん止めておきます。軽い朝食などもとったほうがよいでしょう。そのうえで、もう一度、眠るのです。

一度、光を目に入れてメラトニンの合成をストップさせておくと、たとえもう一度眠っても、15時間後には再びメラトニンの合成が始まります。おかげで、体内時計のリズムは崩れなくて済みます。これが「ウイークエンド・シエスタ」の最大の長所です。

ただし、「ウイークエンド・シエスタ」は本物のシエスタと違って午前中に行なってください。午後に30分以上、昼寝をしてしまうと、やはり睡眠リズムが崩れてしまいます。

ウイークエンドの寝だめに優る最強の裏技、「ウイークエンド・シエスタ」について説明してきました。ただし、一般には「寝だめ」と言っているので、本書でもここまで「寝だめ」という言葉を用いてきましたが、これは厳密に言えば間違いです。

お金にたとえるならば、睡眠に関しては、借金を返すことはできても、貯金はできない仕組みになっています。長時間、眠ることによって過去2週間の睡眠不足のダメージをある程度カバーすることはできます。しかし、長時間、眠ったところで、将来の睡眠不足をカバーすることはできません。「明日から忙しくなるから、今日は寝だめしておこう」というのは、医学的な根拠はありません。「寝・借金返し」では語呂が悪いので、私も「寝
だめ」と言っていますが、本当は違うのだということは、頭の片隅に置いておいてください。

本来は毎日、充分な睡眠を確保するのが理想的です。しかし、あわただしい現代社会ではそれも叶わぬ夢かもしれません。ならば、せめて「ウイークェンドーシェスタ」を実践し、体内時計だけでもしっかりキープできるように心がけてください。 


次善の策としての週末の早寝

このように体内時計のリズムを崩すことには、大きなデメリットがあります。そこで、週末に長い時間、眠りたいときは、朝寝坊するのではなく、いつもよりも早い時刻に眠ることをお勧めします。就寝時刻が一定しなくても、起床時刻が一定なら体内時計は狂いにくいからです。また、仮に2時間や3時間、早く眠ったとしても、起きる時刻が一定ならば、ストレスホルモンのグルココルチコイドはその時刻に合わせて分泌してくれます。もし、ウイークデーの睡眠不足を週末に埋め合わせしたいなら、いつもよりも早く眠るようにするのが理想的です。 

とはいっても、実際には早く眠るのは、そう簡単ではありません。睡眠不足の場合、朝寝坊だったらいくらでもできるのに、不思議と早くは眠れないものです。実はこれにも理由があります。鍵を握っているのはメラトニンの分泌リズムです。

睡眠ホルモンのメラトニンは、朝、光を浴びてから15時間はどたたないと分泌されない仕組みになっています。メラトニンがぐっすりと眠りにつくのに必要な量になるのには、分泌開始から、さらに2時間ほどかかります。つまり起床してから17時間後より前にベッドに横になっても、メラトニンの量が十分ではないため、なかなか眠ることができないのです。ウイークエンドの寝だめは、早く寝ればそれで解決とまでは言えないようです。 


週末の寝だめで崩れるホルモン分泌のリズム

ブルーマンデー症候群がつらいのは、単なる寝不足だけが原因ではありません。ストレスホルモンの分泌がライフスタイルに合わなくなるのも、弊害の一つです。

副腎皮質が分泌するグルココルチコイドは、副腎髄質が分泌するカテコールアミッなどと合わせて、別名、「ストレスホルモン」と呼ばれています。その名の通り、肉体的にも精神的にもストレスがかかると、自然に分泌される仕組みになっています。グルココルチコイドは、長期間分泌され続けると、十二指腸潰瘍や糖尿病、それに内因性うつ病の原因になるなど、人体に悪さをします。ところが、短期間に限っていえば、このホルモンは体 内の各臓器がストレスに対処する能力を与えてくれます。「ストレスホルモン」という別名はいかにも悪者といった印象を与えますが、実際にはよい働きもしてくれるのです。

このグルココルチコイドの分泌に関しても、一日のリズムがあります。起床直前に最も分泌量が増加し、起床後は徐々に低下するのです。これは、起床に伴うストレスに対抗するためだと考えられています。必要なときだけ集中的に分泌しようという戦略をとっているのでしょう。

体内時計のリズムに合わせて起床していれば、グルココルチコイドが充分に分泌されるため、その力を借りて起床後は活発に行動できます。ところが、週末の寝だめで体内時計がずれてしまったら、月曜日の起床時には、グルココルチコイドがまだ分泌される時間になっていないため、必要な濃度に達していません。このため、起床に伴うストレスに対処できないのです。

また、この場合、自律神経も睡眠モードのままです。自律神経は眠っているときは休息のための副交感神経が優位となっています。これが起床とともに、活動のための交感神経にシフトするのです。しかし、月曜日の朝は、無理やり起きても、交感神経がまだ活性化 していないため、ボーっとした感覚が残ってしまいます。

さらに、深部体温についても、充分に上昇してくれず、眠っているときの低い温度のままです。これでは脳も身体も活発に働けるわけはありません。瀬戸内寂聴さんは「出家とは、生きながら死ぬことだ」との名言を残しました。これに対抗して、私は「寝だめした翌日は、起きながら眠っている」と言いたいのですが、できはいかがでしょうか。 


月曜日だけでは回復しない「フルーマンデー症候群」

会社勤めの社会人や学生にとって、体内時計のリズムを狂わす最大の要因は、ほぽ例外なくウイークエンドの寝だめです。大半の方はいくら眠くても、ウイークデーには会社や学校の始業時刻に合わせて起床しています。睡眠不足であったり『寝ボケ脳』になっていたりすることはあるでしょうが、最低限の一日のリズムは保たれています。

ところが、週末になると朝寝坊ができるために、ウイークデーの睡眠不足を解消しようと、ついつい寝だめしてしまいます。これは、人間の脳に、過去2週間くらいに経験した睡眠の不足を普段より長めに眠ることにより補おうとする性質があるためです。正式には「跳ね返り現象」と呼ばれています。

朝寝坊は、その場は実に気持ちがいいものですが、すぐにしっぺ返しが数倍になって返ってきます。週末に朝寝坊すると体内のリズムがすっかり狂ってしまうため、月曜の朝は地獄のようにつらい通勤通学が待ち構えているのです。これは「ブルーマンデー症候群」と呼ばれていますが、実際には月曜だけでは完全に回復しないことが少なくありません。

週末の二日間にわたり体内時計を大幅にずらしてしまうと、月曜の一日だけで完全にリズムを戻すのは困難です。場合によっては、直すのに最大で四日くらいかかることもあります。この場合は、まともに過ごせるのは金曜日の一日だけという、何とももったいない一週間になってしまいます。